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何かあったら書く

歌野晶午『密室殺人ゲーム2.0』『密室殺人ゲーム・マニアックス』

密室殺人ゲーム2.0 (講談社文庫)

密室殺人ゲーム2.0 (講談社文庫)

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』の続編。

密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社ノベルス)

密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社ノベルス)

三部作予定の「密室殺人ゲーム」シリーズ第三作……だが最終巻ではなく、作者によると「外伝的エピソード」。

第一作は 2007 年(講談社ノベルス)の刊行だったが三作目ともなると 2011 年になり、Twitter や若者の犯罪自慢の話題が出てくるなど後から読んでいる者としてはだいぶ現在に近づいてきた感がある。

が、作品の面白さとしては 1>2>3 かな。

以下、『密室殺人ゲーム王手飛車取り』および上記二作のネタバレ。

もうちょっと言うと 1>2「Q4 相当な悪魔」>2 の Q4 以外のエピソード>3、って感じ。

叙述トリックを形容する時にはよく「世界がひっくり返るような」という表現が使われるけど、『密室殺人ゲーム2.0』の「Q4」ではひっくり返った世界が読者に直接刃を突きつけてくる居心地の悪さと快感を味わった。

『密室殺人ゲーム2.0』を読み始めてすぐ(というか読み始める前から)、読者は「前作の爆弾騒ぎは一応なんとかなったのかな」とか「あれ、死んだ<044APD>がなんでいるんだ?」とか疑念を覚えつつもとりあえずいつもの面々のやりとりを楽しむ。しかし「Q4」において、彼らの中身が実は全然別人だったことが明らかになる。

すると、今まで読者が「まーた<ザンギャ君>と<aXe>がしょうもない喧嘩してるよ」「<伴道全教授>は相変わらずだな」とニヤニヤ眺めていた彼らは何だったんだろう? 彼らが連続殺人鬼であるという点はひとまず置いといて、読者は彼らのキャラクターにある種の親しみを持って読んでいたはず。そのキャラクターって一体「何」ですか?

……という作者の意地悪い問いかけが聞こえるようで、いや〜性格悪いなあ、と愉快になったですよ。

しかし、『密室殺人ゲーム2.0』のピークはそこだったかな。それ以降は一作目には及ばない。なんだかんだ言って、自分が好きなのは一作目のキャラクターたちだったようだ。

***

『密室殺人ゲーム・マニアックス』はやや薄味。真相だけ見れば十分衝撃的だが、一作目、二作目の衝撃のあとだとインパクトに欠ける。

この三作目では、もう密室殺人ゲーム自体が陳腐化しつつあるよね。どうするんだろう? ゲームはそもそも「一般人とは違うオレら」のために始められたのに、『2.0』でゲームの存在が広く世に知られ、『マニアックス』では一般人相手に動画公開する者まで現れた。イノベーターは去り、アーリーアダプターを経て、ゲームは一般人と馬鹿に見つけられてしまった。『マニアックス』後はもうミステリ好きでもなんでもない人間たちが劣悪なコピーを生み出していくようになってしまうだろう。

そうしたら、我こそは非凡なりと自任する誰かがまた別のゲームを考えつくのだろうか……。

今後出るであろう最終作でどう物語を締めくくるのか、かなり期待。

***

ところで、元祖密室殺人ゲーマー唯一の生き残り(<aXe>も生きてはいるが)の彼女はどうしているんだろう。そう<伴道全教授>ちゃんですよ。『2.0』か『マニアックス』でさらりと中の人をやっているのかしらと思ったが、残念ながら消息不明。

『2.0』の記述によると、爆弾事件の際に荷物を持って逃げるだけの余裕はあったらしい。重傷ではなかったということか? だが、仮にあの場から逃げ切れたとしても、<aXe>の供述か警察に押収された AV チャットの記録から、彼女が静岡県東部の某高校(修学旅行の時期から高校名まで特定できる)の女子生徒であるという事実は割れるはず。そこまでわかれば逮捕まであと一歩だろう。となるとやはり捕まってしまったのかなあ。

思いつくまま可能性を並べてみる。

  1. 元祖<伴道全教授>は生きている。
    1. あの場からは逃げたが、その後警察に捕まった。
      1. <aXe>が彼女の素性について知る限りを供述したため、面が割れた。
      2. <aXe>は供述しなかったが、元祖ゲーマーたちの保存していた記録に「ホーチミン浜名湖五千キロの壁」の AV チャットが含まれていたため、面が割れた。
    2. あの場から逃げ、警察に面も割れず、今も何食わぬ顔で生活している。
      1. <aXe>が断固として供述せず、押収した記録に「ホーチミン浜名湖五千キロの壁」のチャットがなかった場合、第三者が彼女の正体を特定するのは難しいだろう。
    3. あの場からは逃げたが、警察に面が割れており、潜伏している。
      1. 面が割れた理由は割愛。<伴道全教授>は逃げ切ったが、警察に追われているものと当たりをつけ以後潜伏生活に入った。
  2. 元祖<伴道全教授>は死んでいる。
    1. やはり爆弾で重傷を負っており、逃げるには逃げたが山奥で死んだ。
      1. だとしたら警察に死体が見つかり、その旨『2.0』に記されているはずだから、この可能性は少ないか。
    2. あの場から逃げ、警察に面も割れなかったが、無関係の事故か事件か病気で死んだ。
    3. あの場から逃げ、警察に面が割れていたが、無関係の事故か事件か病気で死んだ。
  3. 全く別の可能性。オフ会に来た<伴道全教授>は替え玉である。
    1. なんだそりゃ? まあ一応。

はてさて。

<伴道全教授>のその後についてはなんにも触れられていないから、いくらでも考えられちゃうんだよねえ。見つかったとも見つかっていないとも、警察が正体を掴んだとも掴んでいないとも書かれてない。<aXe>が警察の厳しい追求に耐えてまで彼女を庇うとは思えないから、本編に記述がないだけで捕まっている可能性が高いのかな。個人的には、どこかでさらっと新しいゲームに参加していてほしいけど。